2008年度終了作品

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かろうじて、幻の終了作品にならずにすんだ。初めて経緯とも手紡ぎ糸を使った無骨な荒っぽい布を、ぽろぽろと耳糸が出っ張ったまま、きれいな地面の作品たちの中に放り出すのは忍びなかった。3日しか無い展示会、当日の朝ようやく織り上がった布を、一日目は糊抜きゆのし。2日目を丸一日使って仕立ての本をたよりに、なんとか着物の形に仮縫いして最終日の朝まだ誰もいない会場で飾り付けた。

そのことは、皆にいろいろな思いを抱かせてしまっているだろうとは思っていた。ただ、ごめんなさいとしか言いようが無かった。間に合わなくても、もう出さなくていいよと言われても、仕立て上げねばならないと決めていた。中途半端にいい子になろうとして、無言の中に非難の声を聞いたとき、私は、ぬれたままのぼろぞうきんの様な布を抱きしめて家に帰った。非難は覚悟の上だったはず。私はよけいな事をした。

ともあれ完成した布は、砧打ちこそ出来なかったけど糊はやや抜かれて固さが抜けてふっくらとした良い風合いになってくれた。ふっくらと膨らんだあたりの布をくしゅっと握りしめたとき、その感触が何かに似ていると思った。何だろうと、記憶の引き出しを探し始めた。それがなかなか出てこなかったのは、それが食べ物だったからだろう。

それは、「お釜で炊いた白いご飯」を噛み締めたときに似ていた。それも、コシヒカリとか、ササニシキとか粘りの有る高級なお米じゃなくて、精米してから時間のたった普通のお米の食感。ぱらりとしてふっくら。2つの不思議な食感と触感。

一時だけきれいな布じゃない、使い込んでも洗っても、むしろ良い風合い、良い色に変わって行く、そんな布を作って行こうと決心した。

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